博士後期課程2年・重松さんが筆頭著者を務める論文が、国際学術誌『Forensic Science International』に掲載され、2026年9月19日にオンライン公開されました。本研究は、馬のたてがみ1本に残された薬剤を詳細に分析し、過去の投与の記録を時系列で読み解く新たな分析手法を示したものです。
馬のたてがみには、成長する過程で体内の薬剤が取り込まれ、過去の投与の痕跡が残ります。しかし、従来の複数の毛をまとめて分析する方法や、センチメートル単位で区切る方法では、異なる時期の情報が平均化され、投与時期を細かく推定することが難しいという課題がありました。
そこで重松さんらは、競走馬理化学研究所との共同研究により、たてがみ1本を2 mmずつ切り分け、それぞれに含まれる薬剤を液体クロマトグラフィー/高分解能質量分析(LC/HRMS)で測定する手法を確立しました。毛の長さ方向に沿って薬剤の濃度を精密に調べることで、従来の分析では捉えにくかった局所的な薬剤の分布を明らかにしました。
研究では、薬剤オシロドロスタットを1回投与した1頭の馬から、1、2、3、6か月後にたてがみを採取しました。その結果、投与から6か月が経過した後も薬剤を検出でき、薬剤が多く含まれる位置が、毛の成長に伴って根元側から毛先側へ移る様子を明瞭に捉えました。 薬剤は毛全体に広く分布するのではなく、限られた範囲に集中して残っており、たてがみが過去の投与の記録を保持していることを示しました。
本研究の特徴は、単に「薬剤が含まれているか」を調べるだけでなく、「いつ頃投与されたのか」を推定するための情報を、たった1本のたてがみから引き出す点にあります。馬のたてがみに適したミリメートル単位の分割と高精度な定量分析を組み合わせた、先駆的な研究成果です。今後、複数の馬やほかの薬剤での検証が進むことで、過去の薬剤投与をさかのぼって調べるドーピング検査への応用や、競馬・馬術競技の公正性を支える技術としての発展が期待されます。
論文名: Millimeter-segmental analysis of individual equine mane hairs by LC/HRMS for revealing chronological drug distribution in anti-doping investigations
著者: Ryo Shigematsu ほか
掲載誌: Forensic Science International, 389 (2026), 113144
DOI: 10.1016/j.forsciint.2026.113144